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食べることが中心の生活が一変、 新たな世界が広がって、人生がもっと楽しく

「『やせてどうなるものでもないだろう』という思いから肥満症の治療をためらっている人もいるかもしれませんが、治療することで今までとは全く違う世界が待っているよと伝えたいですね」—S・Kさん

健康診断をきっかけに肥満症の治療をスタート

肥満症の治療を受けるきっかけは健康診断でした。私は介護職で夜勤もしていたため、年2回健康診断を受けていたのですが、ある年の検査で尿たんぱくが多いという結果が出て、「放置すると透析が必要になるかもしれない」と、大学病院の糖尿病内科に紹介されたのです。大学病院で再検査を受けたところ尿たんぱくは出ておらず、それほど心配な状態ではなかったものの、糖尿病の判断基準の一つであるHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)が基準値を超えていたため、糖尿病の治療を開始することになりました。医師からは、治療の選択肢としては薬物療法もあるけれど、体格の大きな人は減量すれば血糖状態が改善する可能性があると説明があり、まずは食事療法からのスタートを提案されました。

子どもの頃から食べることが大好きで体が大きく、洋服は既製品のレディースでは合わず、メンズの大きなサイズの服を着ていたこともありました。自己流でダイエットもしましたが、一時的に10キロほどやせてリバウンドすることの繰り返し。そのうちに「つらい思いをしてやせても結局元に戻るのなら、好きなものを食べて生きていけばいいかな」と思うようになり、減量は諦めていました。ですから、医師から3食のうち1食をフォーミュラ食1に置き換える食事療法を提案されても、「そんな方法でやせるわけがない」と疑っていたのです。「3ヵ月だけやって駄目ならやめよう」と思って食事療法を始めたところ、順調に体重が減り、HbA1c値も低下。専門の医師の下で治療することは大切なのだと感じ、通院を続けることにしました。

1)  フォーミュラ食は、エネルギー源である糖質・脂質を極力少なくする一方、必要十分量のたんぱく質・ビタミン・ミネラルを含んだ調整食です。肥満症の食事療法の補助として有用であるとされています。(出典:日本肥満学会編:肥満症診療ガイドライン2022, ライフサイエンス出版, 2022, p.54)

糖尿病の怖さを実感して、減量・代謝改善手術を決断

減量・代謝改善手術については、大学病院を受診した当初から治療選択肢の一つとして医師から説明されていました。ですが、食事療法で体重も減ってきていましたし、医師にも「手術せずに薬物療法で治療している人もいますから、少し考えてから判断していいですよ」と言われていたので、私自身はこのまま食事療法を続けていればいいかなと思っていました。

気持ちが変わったのは、右手首を骨折して入院したことがきっかけでした。同室に糖尿病を合併している患者さんが多く、血糖値が高くて手術が延期になった方のほか、糖尿病による足の潰瘍・壊疽が重症化して足を切断した患者さんも入院されていたのです。糖尿病という病気の怖さを間の当たりにしました。また、その頃放送されていた海外ドラマで、肥満の女性が減量・代謝改善手術を受ける決心をするシーンを見たことも後押しになり、2018年11月に手術を受けました。

以前は夜勤明けは足首が痛くて、休日は寝て過ごすことが多かったのですが、術後は大幅に体重が減ったからか足首の痛みが軽くなり、体も疲れにくくなりました。また、自己流のダイエットで一時的にやせたときに買った洋服をまた着られるようになり、履き口のゆったりとしたタイプの靴下から普通の靴下を履けるようになったこともうれしかったですね。思わず遠方に住む兄に「普通の靴下が履けるようになったよ」と電話してしまいました。

主治医やコーディネーターに支えられ、治療を継続

その後しばらくは順調だったのですが、手術から8ヵ月を過ぎた頃に6~7キロほどリバウンドしてしまいました。「このままでは、また元の体重に戻ってしまう」と不安になって慌てて外来を受診したのですが、医師からは「術後にリバウンドする患者さんはあなただけではないから、心配しなくても大丈夫ですよ」と説明があり、薬物療法を提案されました。そのときは、肥満症治療の「最後の砦」だと思って手術を受けたにもかかわらず、体重をコントロールできなかった自分が情けなくて、薬に頼らなければやせられない自分は駄目な人間なんだという気持ちになっていました。ですが、医師から「薬を使わずにやせれば勝ち、使ったから負けということではない」、「大切なのは体重をコントロールして健康を維持すること」と言ってもらって気持ちも落ち着き、納得して薬物療法を始めることができました2

医師だけでなく、肥満症治療コーディネーターさんの存在も大きかったですね。リバウンドをしたときも、思うように体重が減らないときも相談に乗っていただいて、「あなただけではないよ」「みんな大変な思いをしているよ」と励まされたり、「あなたの身長でこの体重をキープできているのはすごい」「よくがんばっていますね」と褒めてもらったり。体重が増えてしまっても怒ったりせず、減ったときは一緒に喜んでくれるのでうれしかったです。コーディネーターさんの支えがあったからこそ、前向きな気持ちで治療を続けてこられたのだと思います。

2)  薬の使用は必ず専門家の指導の下、服用ください。ご自身の判断では絶対に服用しないでください。

食べることに使っていた時間が減り、仕事や趣味の時間が増加

以前は食べることが生活の中心でした。食べることばかり考えて、何か口にしていないと落ち着かない時期もありましたが、肥満症の治療を始めてからは食べることを考える時間が減っていきました。その分、仕事のことを考える時間が増えて、以前よりも効率よく仕事ができるようになったと感じています。また、以前ならタクシーを使っていた場所に歩いて行ったり、食べることに使っていた費用で旅行に出かけたり、旅行もグルメではなく温泉や観光が目的になったりと、自分でも驚くほど思考回路や行動が変わりました。「やせてどうなるものでもないだろう」という思いから肥満症の治療をためらっている人もいるかもしれませんが、治療することで今までとは全く違う世界が待っているよと伝えたいですね。

*  肥満症の治療の効果には個人差があります。全ての方が同様の結果を示すものではありません。また、治療の選択肢は患者さんの状態によって異なりますので、医師と相談して決定してください。

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