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ストレスを食で解消する負のループを 手放して、がんばる自分を認めながら 前を向いて歩いていきたい
大学卒業後は看護師に。多忙な毎日のストレスを食べることで解消
子どもの頃から体が大きくて、中学生になると洋服や制服は特注サイズを着用していました。高校卒業後は看護師をめざして大学の看護学部に入学。20歳の頃に自己流のダイエットにチャレンジして、半年で30キロほどやせました。体が軽くなり、好きな洋服を着られるようにもなって、この時期は外出が楽しかったですね。やせてからも食事には気をつけていたのですが、大学の実習や課題、テストに追われ、そのストレスを食べることで発散するようになり、体重も少しずつ増えていきました。
看護師として働き始めた当初は、太ってはいましたが日常生活や仕事に支障はなかったです。ただ、勤続年数を積み重ねるうちに仕事の内容や環境が変化していき、デスクワークが増えて運動量が減りました。さらに役職につくようになると責任も重くなり、また医療安全管理といった今までとは違う分野の仕事を任されるなど、プレッシャーを感じる場面も多くなりました。時間や気持ちに余裕がなくなるにつれ、ストレス解消やリラックスの手段としてますます食に走るようになり、体重もどんどん増えていきました。
感染症の発症を機に肥満症の治療を開始
40歳の頃に感染症の一種である蜂窩織炎(ほうかしきえん)を発症して、足が腫れてしまったんです。皮膚科を受診して血液検査を受けると肝機能の数値が非常に高く、改めて自分が勤務していた病院の消化器内科を受診。糖尿病の判断基準の一つであるHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)の数値も基準値を超えていて、医師から「やせなければ数値も下がらないよ」と言われ、肥満症の治療を始めることになりました。
治療は食事療法が中心だったのですが、食べる量をコントロールすることが難しかったですね。食事量を減らせば体重も1、2キロは減るものの、いつもの癖でつい食べ過ぎてまた元に戻ることを繰り返していました。普通の患者さんなら、医師や看護師から厳しく指導されれば気を引き締めることもできると思うのですが、私の場合は医師も看護師も同僚なんですね。ですからどこか甘えがあって、肝機能 の数値は落ち着いてきたものの、HbA1c値と体重は思うように下がらない状態が続いていました。
この先も健康で、自分らしく生きていくために 減量・代謝改善手術を決意
消化器内科で治療を始めて1年半ほど過ぎた頃に担当の医師が異動することになり、主治医が糖尿病専門の医師に変更になりました。肝機能は落ち着いているものの血糖コントロールがあまりうまくいっていないとのことで、糖尿病の内服治療を開始。その後、血糖値は下がってきたけれど体重のほうは相変わらずでした。減量・代謝改善手術も提案されていたのですが、どこか「自分とは縁のないもの」だという意識がありましたね。また、当時は大学院に通っていて、普段の仕事と大学院の勉強で手いっぱいの状態。とても手術を受ける余裕はありませんでした。
自分なりにがんばってはいても思うように減量は進まず、体重は140キロに近づいていきました。肝機能や血糖値は内服治療で落ち着いているものの、すごく良い状態というわけでもありません。これ以上体重が増えてしまったら10年後、20年後には介護が必要になって、周囲の人に迷惑をかける人生になってしまうかもしれない。そう思うと、このタイミングで減量・代謝改善手術を提案されたことは「巡り合わせ」であり、この先も健康で自分らしく生きていくためのチャンスなのではないかと感じ、2022年、大学院修了のタイミングで手術を受けました。
減量が思うように進まない時期も、 医療スタッフのサポートで前向きに
減量・代謝改善手術で胃を小さくしたにもかかわらず術前と同じように食べていたため、術後しばらくは吐き気や嘔吐があったのですが、適量がわかるようになってからは体調も良くなり、体重も減りました。ですが、手術から時間が経つにつれて食べられる量も増えていき、体重低下のスピードもゆるやかに。体重が減ったことでフットワークが軽くなり、旅行や友人との外食など食べる機会が増えたことも一因だと思います。食べ過ぎるループを何とか断ち切りたいと思ってはいましたが、食事量を自分の意志でコントロールするのは難しく、一度は治療を諦めかけたこともありました。
そんな私をサポートしてくれたのが、肥満症治療コーディネーターさんです。食べてしまったことを叱られたり責められたりすると自尊心も傷ついたでしょうし、うまくやせられない自分に嫌悪感を抱き、それがストレスになってしまっていたかもしれません。ですが、コーディネーターさんは決して私を否定せず、「そういうこともありますよ」と理解を示してくれました。趣味のことなど治療以外の話をすることも多く、医療者としてだけでなく「人と人」として向き合ってくれたことが印象に残っています。主治医や看護師、管理栄養士など肥満症治療コーディネーター以外の医療スタッフも皆、同じように寄り添ってくださって、とても励まされました。
意志が弱いから、だらしがないから太っているわけではないことを わかってほしい
減量・代謝改善手術から2年ほど過ぎた頃、主治医から肥満症治療薬の使用を提案されました。自分の中では薬に頼ってやせることに罪悪感もあったのですが、体重が思うように落ちない状態にもどかしさを感じ、また主治医から「薬を使うことは悪いことではない」と説明されて、薬物療法を始めることになりました1。今後も医師と相談の上、適切な肥満症治療を継続していきたいと思っています。
これまでの経験を振り返ると、体型について見ず知らずの人から通りすがりにからかわれたり、陰口を言われたりすることはよくありました。気にしないようにしていたものの、やはりつらい気持ちになりましたし、少なからずストレスは感じていたと思います。「体重をコントロールできないのは自分が弱い人間だから」だと思い、自己肯定感も低かったですね。同時に「太っているからといって見下されたくない」という気持ちも強く、勉強も仕事も人並み以上にがんばってきました。その反面、がむしゃらにがんばることがストレスになって、食べるという行動につながっていたようにも思います。
医療従事者の一人として糖尿病など生活習慣病の方と接することもありますが、ご本人の「食べてはいけないとわかっていても食べてしまう」という気持ちはよくわかります。それを頭ごなしに「食べたら駄目ですよ」と叱りつけてしまうと、ご本人は「自分が駄目だから食べてしまうんだ」と自分を責めてしまうかもしれません。私自身も含め、肥満を抱える人たちは皆それぞれに悩み、苦しんでいます。医師や看護師など医療従事者をはじめ、ご家族など患者さんの身近にいる皆さんには、肥満症の人たちは決して意志が弱いから、だらしがないから太っているわけではないことをわかってほしい。そして、ご本人のがんばりを認めて支えてあげてほしいと思います。
1) 薬の使用は必ず専門家の指導の下、服用ください。ご自身の判断では絶対に服用しないでください。
* 肥満症の治療の効果には個人差があります。全ての方が同様の結果を示すものではありません。また、治療の選択肢は患者さんの状態によって異なりますので、医師と相談して決定してください。
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